外国商標のご相談中でも、中国での商標登録は非常に多いです。
特に多いのは、化粧品、アパレル、衛生用品の分野かと思います。
中国においてこれらの分野は、メイドインジャパンの良質な商品がブランド力を持ちやすく、しかも巨大な市場ですので、日本の会社にとっては魅力的なビジネスチャンスと考えられます。
しかし一方で、中国といえば、模倣品問題が頭に浮かびます。
自分の知的財産が守ることが難しく、また、トラブルが起こりやすいという印象があるかもしれません。
ここでは、中国でビジネスをするときにトラブルを防止するのに非常に重要な、「商標登録」に関して基本的なことをまとめています。
初心者の方からよくある質問や、注意点をまとめましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
中国の商標登録についてよくある質問
インターネットを通じて中国で商品を販売していますが、商標登録は必要ですか?
まず、「意図的に中国に向けて商品を販売している」ときは、なるべく早く中国での商標登録を検討してください。
中国では、売れている商品名を他人が先取り的に商標登録出願するケースがかなりみられます。
このようなトラブルを防止するには、自分が先に商標登録することは非常に重要です。
一方、「中国に向けに商品を販売しているわけではないけれど、インターネットを通じて中国の方が商品を買うことがある」という場合はどうでしょうか。
こういう場合も、もちろん商標登録するのがベストです。
ただし、現実としてはは、実際に中国で売れている量で考えるのも良い方法だと思います。
もし、意図せずにせよ、ある程度商品が売れていて、利益が出ているならば、商標登録を検討するのが賢明です。
中国の工場で商品を作っているのですが、中国で商標登録する必要はありますか?
これは、大きく二つのケースに分かれます。
一つ目は、中国国内で商品を作って、商標も付している場合です。
例えば、商品に商標を表記したり、商標のラベルを貼ったりしているケースですね。
二つ目は、商品は中国で作るけれど、その段階ではまだ商標は付されていない場合です。
例えば、中国から日本に商品を輸送して、日本国内で商標が記載されたパッケージに入れるような場合です。
一つ目のケースの場合は、中国国内で商標登録をするのが理想です。
例えば、あなたが、文房具メーカーで、ABCという商品名の文房具を中国の工場で製造し、ABCと記載されたパッケージに入れて、日本に輸送して販売しているとします。
このとき、もし、中国で他人にABCという商標を取られてしまった場合、問題が起きる可能性があります。
中国政府は、近年、かなり模倣品対策(商標権侵害している商品の輸出入の取り締まり)に力を入れていますので、中国から日本に、「ABC」と表示された文房具を輸送しようとしたとき、あなたの商品が、中国国内の他人の商標権を侵害する物だとして、税関で差し押さえられるケースが増えているとのことです。
一方、二つ目のケースのように、中国国内では商標は付さないのであれば、商標登録の必要はありません。
中国で商標登録すると、台湾、香港、マカオでも保護されますか?
残念ながら、中国本土と、台湾、香港、マカオは、全て別々に商標登録しなければなりません。
なお、台湾、香港、マカオの3カ国で商標登録する場合、国際登録出願(マドプロ)を使うこともできないため、各国で商標登録するしか方法がありません(国際登録出願については後述)。
中国での模倣品対策に商標登録は有効ですか?
有効です。
確かに、中国の場合、商標登録をするだけで全てが安心だということではありません。
また、中国で自社の模倣品が現れたときに、商標権侵害で訴えてやめさせるとすれば、外国で訴訟をすることになる場合もあるので、簡単なことではありません(それは中国に限りませんが)。
しかし、商標登録すらしていない状態ですと、本当に何ら防御手段がなくなってしまいます。
そして、有名になり始めた自分の商標を他人に商標登録されてしまい、逆に自分自身が権利侵害で訴えられる可能性もありますので、最低限の防御として商標登録を検討しましょう。
中国では、先使用権は認められないのですか?
先使用権とは、「(商標登録はしていないとしても)先にその商標を使っていた人」を保護する法律です。
インターネット上では、「中国では日本のように先使用権が認められないため、先に商標登録されてしまったら対抗するすべがない」と説明している記事を見かけます。
しかし、これは誤り(または古い情報)で、現在の中国の商標法では、日本でいう先使用権に相当する法律が設けられています。
ただし、残念ながら、この法律にはあまり期待しない方が良いでしょう。
もともと、「使用による権利」をあまり重要視しない中国においては、先使用権が認められるケースは多くありません。
また、そもそも、日本であっても、先使用権を認めさせることは簡単なことではありません。
その商標が有名である事実を証明するためにたくさんの証拠を用意する必要がありますし、時間やお金も非常に多くかかります。
先使用権に期待するより、「商標登録する方がずっと安くて簡単、しかも確実」、というのは、日本も中国も同じといえます。
中国で商標登録するのにどれくらい期間がかかりますか?
2024年現在、中国の商標審査はかなり早くなっており、出願から審査結果が出るまで、3ヶ月から9ヶ月程度です。
ただし、日本とは異なり、審査結果でOKをもらった後に、最終的に商標登録が確定する前に、約3ヶ月の公告期間(審査結果を世の中に公開し、異議がある人は異議申し立てをすることができる期間)があります。
中国での商標登録は、直接出願と国際出願(マドプロ)どちらがオススメ?
外国で商標登録する方法は、大きく2通りあります。
一つ目の方法は、その外国の特許庁に直接手続きする方法です。
これを、直接出願、または各国出願といいます。このとき重要なのは、日本の会社が中国の特許庁に直接手続きをするためには、中国の代理人(弁理士)を介する必要があり、その分の費用がかかるということです。
もう一つの方法は、日本国内に窓口がある「国際事務局」というところに手続きをする方法です。
これを国際登録出願(通称マドプロ)といいます。国際出願の特徴は、「複数の国に一度に手続きできる」ことと、「各国ごとに代理人(弁理士)を雇わなくて良いこと」です。
さて、中国で商標登録する場合、各国出願と国際出願のどちらが良いでしょうか。
私は、中国は、比較的、各国出願をおすすめしたい国といえます。
その理由をここでは説明します。
指定商品の記載違反での拒絶理由通知が来やすい
商標登録のときに非常に重要になる「指定商品・役務」という部分の記載ですが、中国では、中国の特許庁が定めた「標準的な記載」をするように強く推奨されています。
なので、国際登録出願を使って、指定商品の書き方を他の国と一緒にした場合、中国だけ審査結果でNGとなり、補正などの手続きが必要になる場合があります。
このように、補正手続きが必要になると、その時点から改めて中国の弁理士(現地代理人)を雇わなくてはならなくなりますので、国際登録出願の「費用が安く済む」というメリットがなくなります。
ニース国際分類表に記載されているスタンダードな商品やサービスならば問題ないのですが、ニッチな商品や、今まで世の中になかった珍しい商品などの場合は、直接出願も検討しましょう。
登録商標と「類似する」との拒絶理由通知が来やすい
中国の審査における、「商標の類似の判断」は、かなり独特で、なおかつ審査官の裁量の幅が広いです。
審査結果において、日本の弁理士の感覚では「全然類似していない」と思うような登録商標との類似を指摘されることも多いと感じます。
もっというと、中国の弁理士ですら正確に結論を出すことが難しいようで、中国の弁理士に有料で事前商標調査を依頼しても、それほど調査の精度が上がらないという場合もあります。
この項と先ほどの1項目の事情により、中国は、現状、全ての国の中でも比較的、すんなり何事もなく商標登録になる可能性が、やや低めな国といえます。
そうすると、国際登録出願をしても途中から現地代理人を雇う必要が出てきますので、国際登録出願の費用面のメリットが薄くなることになります。
中国だけ他の外国と異なる漢字商標を用いる場合もある
3つ目に、下記の有名ブランド名のように、中国だけ、専用の漢字商標で商標登録する場合は、他の国と一緒に国際登録出願することはできませんので、当然、中国の特許庁に直接出願をすることになります。
日本 | 中国 |
CoCo壱番屋 | 客客壹番屋 |
アディダス(adidas) | 阿迪達斯 |
ユニクロ | 优衣库 |
資生堂 | 资生堂 |
BMW | 宝马 |
中国の代理人は比較的安め
なお、通常、各国出願の大きなデメリットは、現地代理人(外国の弁理士)を雇う費用がかかることにありますが、中国の場合、商標登録の代理人の報酬は、そこまで高くない傾向にあります。
経験上ですが、例えばアメリカなどに比べれば、安価である傾向にあると思います。
このことも、今まで、中国出願について、比較的、各国出願が好まれてきた背景にあるかと思います。
中国の商標登録で注意するところは?
制度の変化
中国の知的財産に関する法制度は、近年急激に整備されてきました。
したがって、インターネットや書籍で情報を得る場合は、最新の情報にアクセスするように常に注意しなければなりません。
これは、専門家に中国の商標登録を依頼するときも同様といえます。
信頼できる弁理士に依頼しなければ、最新の制度について行っていない可能性があるということです。
中国独特の指定商品の記載
指定商品の記載については、すでに説明した通り、中国の当局が定める「標準的な指定商品」を記載することが重要です。
少し専門的な話になりますが、商品同士の類似関係を示す「類似群」も日本と違う場合があるので、注意が必要です。
中国の弁理士に相談して、自分の指定したい商品、役務が確実に権利範囲に含まれるよう、注意を払いましょう。
代理人選び
中国では、特許の代理人資格と商標の代理人資格は異なる資格であり、商標の代理人資格は、資格試験がありません。
したがって、非常に多くの商標代理人がおり、その質はまちまちです。
代理人選びは中国での商標登録が成功するための最大の課題の一つといえます。
しかも、中国における知的財産は、法制度こそ近年整ってきましたが、その歴史は浅く、知的財産の考え方に精通している中国弁理士は多くないため、仕事を依頼するときはこちらの意図が確実に伝わっているかどうか注意が必要です。
漢字の商標
日本で漢字の商標を使用しているときに、中国で、そのまま同じ商標を登録する会社さんが結構います。
日本の漢字は、中国では使われない(読めない)ケースが多々ありますので、注意が必要です。
例えば、上にも例であげた、資生堂 → 资生堂 などは代表的な例といえます。
そして、場合によっては、中国の審査官は、中国では使わない漢字は文字ではなく「ただの図形」として判定することがあります。
例えば、漢字4文字の商標のうち、2文字が中国で使わない漢字だったとします。
この2文字がただの図形だと認識されてしまうと、残り2文字だけを抜き出して、類似の判断をされることになりますから、全く想定していなかった登録商標との類似を指摘される可能性が出てきます。
まとめ
中国での商標登録の最大のポイントは、何といっても、外国商標の経験が豊富な日本の弁理士に相談することだと思います。
外国商標の経験が豊富な日本の弁理士は、自身がしっかりノウハウを持っているだけでなく、信頼できる中国代理人との繋がりがあります。
アイリンク国際特許商標事務所では、中国への直接出願も、国際登録出願もどちらも長い経験がありますので、安心してご相談ください。