ビジネスモデル特許の要件とは?重要ポイントを具体例で分かりやすく解説

ビジネスモデル特許と言われると、「他の一般的な特許とは全く違うの?」「なにか特別なルールがあるの?」と思われる方も多いと思います。

ビジネスモデル特許も、他の一般的な特許と同じように、自社のビジネスを保護するものです。

両者には考え方や目的に違いはあるものの、制度上は両方「特許法」に基づいて保護されています。

ビジネスモデル特許と一般的な特許の考え方や目的の違いなどは後述します。

そして、「特許法」に基づいて保護してもらうためには特許を申請(出願)して、特許を取得することが必要です。

ただし、特許を申請(出願)すれば、必ず特許を取得できるという訳ではなく、特許を取得するには、申請しようとしている内容が特許法で決められたルール、「特許の要件」を満たさなくてはなりません。

そこで、この記事では「ビジネスモデル特許の要件」について解説します。

ビジネスモデル特許は一般的な特許と少し違いがあるので、今回はビジネスモデル特許にとって特に重要なポイントを具体的な例を使って分かりやすく解説します。

目次

ビジネスモデル特許|要件とは

結論からいうと、ビジネスモデル特許も一般的な特許と同様の要件が求められます。

まず、ビジネスモデル特許と他の一般的な特許の違いについて解説します。

ビジネスモデル特許と一般的な特許の違い

ビジネスモデル特許の目的は、ビジネスモデル特許を取得することでビジネスモデル全体を直接的に保護することです。

その結果、ビジネスモデルを利用している自社のビジネスを保護できます。

一方、他の一般的な特許の目的は、特許を取得して製品を保護することが目的です。

その結果、製品を製造販売などする自社のビジネスを保護できるのです。

両者にはこのような違いがありますが、制度上は両方「特許法」に基づいて製品やビジネスモデルが保護されています。

特許法では、特許法第1条にその目的が規定されています。

どのような法律においても、第1条は非常に重要な内容が規定される決まりです。

その特許法1条では、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」と目的が規定されています。

そこで、特許法では、発明の保護を目的として、発明者に一定期間独占的に発明を実施する権利を与えています。

表現が難しくて、少しわかりにくいですよね?

簡単に言えば、ビジネスモデル特許も一般的な特許も、特許を取得すれば特許法に基づいて「この技術やビジネスモデルはあなただけが使っていいですよ」という許可をもらえ、技術やビジネスモデルを独占的に利用できます。

また、特許があるので、競合他社の模倣を阻止でき、技術やビジネスモデルが保護されます。

ただし、先ほども申し上げたように、特許を申請(出願)して特許を取得するには申請しようとしている内容が特許法で決められたルール、「特許の要件」を満たさなくてはなりません。

なぜなら、特許にするかどうかの特許庁での審査の基準が、この「特許の要件」となるからです。

申請された特許に対して、事務的な審査(方式審査)と、審査官による内容の審査(実体審査)がおこなわれ、両方の審査をパスできると特許になります。

内容の審査をする審査官が「特許にするかどうか」を判断する基準が「特許の要件」となります。

つまり、ビジネスモデル特許も、一般的な特許と同じ要件で審査されるので同じ要件を満たす必要があるのです。

特許の要件

特許法に基づく特許の要件は、主に以下の8つです。

特許の要件
  • 発明であること(特許要件1)
  • 産業上の利用可能性があること(特許要件2)
  • 公序良俗違反ではないこと(特許要件3)
  • 新規性があること(特許要件4)
  • 進歩性があること(特許要件5)
  • 先願であること(特許要件6)
  • 実施可能要件を満たすこと(特許要件7)
  • 出願人適格を満たすこと(特許要件8)

8つの要件は全て大切な要件ではありますが、ビジネスモデル特許にとっては、その性質から以下の4つが非常に重要です。

ビジネスモデル特許において特に重要な要件
  • 発明であること
  • 新規性があること
  • 進歩性があること
  • 実施可能要件を満たすこと

そこで、次項で特に大切な4つの要件について具体例を交えて解説します。

ビジネスモデル特許|特に重要な要件を具体例で解説

ビジネスモデル特許はその特徴から、以下の4つの要件が特に重要です。

ビジネスモデル特許において特に重要な要件
  • 発明であること
  • 新規性があること
  • 進歩性があること
  • 実施可能要件を満たすこと

まずは、ビジネスモデル特許の特徴を見てみましょう。

ビジネスモデル特許の特徴

ビジネスモデル特許は、ビジネスの仕組みや手法を達成するための「発明」に焦点を当て、「発明」が「特許」であると判断された場合に与えられるものです。

言い換えれば、ビジネスモデルは事業収益を上げるための戦略やフレームワークで、ビジネスモデル特許はこの戦略やフレームワークを動かすための構成が「発明」として認められた場合に与えられる特許です。

また、「発明」は法律上、「物」である必要があるため、多くのビジネスモデル特許では、この「物」をインターネットに接続されるサーバー、PC(コンピューター)、または装置などとしています。

そして、このサーバーなど(サーバーなどを使った処理)に特徴があり、この特徴が認められて初めてビジネスモデル特許が成立しています。

ビジネスモデル特許で主幹となるサーバの処理などは、データを含めて目に見えない内容です。

一方、他の一般的な特許では、物の形状や組成、仕組みなど目に見える物の特徴を保護することで製品を保護しています。

すなわち、ビジネスモデル特許では、他の一般的な特許よりも複雑で抽象的な概念をあつかっています。

このことから、他の一般的な特許と同じ要件であっても、捉え方が少し異なるのです。

では、さきほどの4つの要件をビジネスモデル特許の特徴を含む具体例を用いて詳しく解説します。

発明であること

特許法第2条第1項に「発明」が定義されています。

そこでは、「『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定されています。

少し分かりにくい表現ですよね。

そこで、審査基準には「発明に該当しないもの」の例があげられています。

ちなみに、審査基準は、特許庁の特許の審査官が審査をするためのマニュアルのようなものです。

発明に該当しないもの
  1. (i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)
  2. (ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
  3. (iii) 数学上の公式
  4. (iv) 人間の精神活動
  5. (v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

さらに注釈として、「自然法則を利用している部分があっても全体として自然法則を利用していないものはこの類型に該当する」と記載され、逆に、「自然法則以外の法則を利用していても全体として自然法則を利用しているものはこの類型には該当しない」とも記載されています。

この中でビジネスモデル特許に特に関係のあるのは以下の審査基準です。

ビジネスモデル特許に特に関係のある審査基準
  • (i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)
  • (ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
  • (iii) 数学上の公式
  • (iv) 上記(i)から(iii)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

一つずつ解説します。

(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)

自然法則とは、自然界で体験により見出される科学的な法則です。

例えば、「水が高いところから低いところに流れ、その分高い場所にある水が軽くなる」というのは体験によって見出される科学的な法則になります。

そのため、このような自然法則を利用していない「経済法則」や「計算方法」は自然法則以外の法則になります。

ただし、万有引力の法則などは、自然法則そのものであり、自然法則を”利用”していないため、発明に該当しません。

(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)

人為的な取り決め、ゲームのルールは人間が決めたものですので、人為的な取り決めとなります。

(iii) 数学上の公式

数学で決められている公式は発明に該当しません。

(iv )上記(i)から(iii)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

この項目では方法だけでは「発明」とならないとしています。

先ほど申し上げたように「ビジネスモデルは事業収益を上げるための戦略やフレームワークで、ビジネスモデル特許はこの戦略やフレームワークを動かすための構成が「発明」として認められた場合に与えられる特許」です。

多くのビジネスモデル特許では、戦略やフレームワークを動かすための構成に、アルゴリズムを用いて計算する工程を含んでいます。

アルゴリズム自体は自然法則を利用したとは認められません。

しかしながら、審査基準の注釈の部分には「自然法則を利用している部分があっても全体として自然法則を利用していないものはこの類型に該当する」と記載され、逆に、「自然法則以外の法則を利用していても全体として自然法則を利用しているものはこの類型には該当しない」とも記載されています。

ここが、ビジネスモデル特許にとって非常に重要なポイントとなります。

上述のようにアルゴリズム自体は自然法則を利用したとは認められません。

しかしながら、このアルゴリズムをプログラムに組み込むことで発明として成立させることが可能なのです。

例えば、プログラムを組み込んだコンピューターによって実現される方法、プログラムを組み込んだコンピュータによって実現される装置、プログラムを記録した記録媒体は、「自然法則を利用したもの」として発明に該当します。

ここで、具体例を見てみましょう。

例えば以下のようなビジネスモデルがあったとします。

「オンラインマーケットプレイス」の特徴
  1. 顧客の好みに合わせた商品やサービスを提案する
  2. マーケット内のデータを分析し、商品やサービスの価格を最適化する
  3. 顧客データなどを管理し、改ざんなど不正行為を防止する

これらの特徴だけを見ると、各作業を人間がおこなっていたり計算を人間がおこなっていたりする可能性があり、「発明に該当しないもの」のうち(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)と(iii) 数学上の公式が該当する可能性があります。

また、なにか物を利用していることが特徴でもないため、全体として自然法則を利用しているとは言えません。

ところが、この「オンラインマーケットプレイス」の運用にAIやブロックチェーン技術を利用した場合はどうでしょう?

「オンラインマーケットプレイス」の特徴
  1. AIを使って顧客の好みに合わせた商品やサービスを提案する
  2. AIを使ってマーケット内のデータを分析し、商品やサービスの価格をリアルタイムに最適化する(ダイナミックプライシング)
  3. ブロックチェーン技術を用いて、顧客データなどを管理し、改ざんなど不正行為を防止する

AIやブロックチェーン技術はPCやサーバーを利用しなくては達成できません。

PCやサーバーは自然法則を利用した「物」です。

好みに合わせた提案をするプログラムや価格を算出するためのプログラムは、自然法則を利用したものではありません。

しかし、これらプログラムを組み込んだコンピューターやプログラムに合わせた処理に特徴があるサーバーなどは「物」となります。

そのため、このビジネスモデルは「全体として自然法則を利用したもの」となり、ビジネスモデル特許となり得ます。

ビジネスモデル特許の申請書類を作成する場合、この「物」を利用していることを強く意識して作成する必要があります。

ビジネスモデルの仕組みや使用するプログラムなどを説明する際に、「物」を利用していることを必ず記載し、発明が「物」であることを明確にしましょう。

ビジネスモデル特許では「物」として明確な記載がないと、特許庁の審査で「物」を利用していないと認定されてしまい、特許を取得できないことも多々あります。

特許庁の審査でよくある指摘として、人が処理しているか装置が処理しているか不明なので、「物」を利用していないと指摘されてしまうことがあります。

新規性があること

特許法第29条第1項各号には、新規性がない発明として以下の3つが掲げられています。

新規性がない発明
  • 日本国内又は外国において、特許出願前に公然知られた発明(第1号)
  • 公然然実施をされた発明(第2号)
  • 頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第3号)

そして、同項は、これらの公知の発明は、新規性を有していない発明であり、特許を受けることができない旨を規定しています。

少し難しい表現ですね。

「新規性がある発明」とは、簡単に言えば「客観的に見て新しい発明」であるということです。

いくら、発明した人が「これは今まで見たことも聞いたこともない新しい発明だ!」と思っていても、すでに世間に知られているものであれば、その発明は客観的に見て新しいとは言えず、「新規性がない発明」となります。

さらに、簡単な例で解説します。

たとえば、
○あなたの発明の構成=A+B
であり、
○既に知られている技術の構成=A+B
となっていれば、あなたの発明の構成は既に知られている技術と全く同じ構成です。
このような場合、新規性がない、となります。

ここで、「既に知られている技術」としては、大きく2つの種類があります。

1つめは、既に特許庁に申請されて公開されている特許の申請内容に記載されている技術です。

2つめは、既に、実際に販売などされている製品に組み込まれている技術です。

両方とも、誰にでも知ることができる、すなわち世間に知られている技術となります。

ビジネスモデル特許で注意すべき点は、ビジネスモデル特許に利用しているソフトウェアを先行リリースして、その内容が知られている場合です。

この場合、新規性がない、となります。

ITの世界では迅速なリリースが重要視されますが、そのリリースがビジネスモデル特許の申請に影響を及ぼす可能性があることは考慮しましょう。

さきほどの「オンラインマーケットプレイス」の例で言えば、「顧客の好みに合わせた商品やサービスを提案する」ことを先行リリースし、使用するAIの特徴を宣伝に使ってしまった場合などが該当します。

逆に、ソフトウェアをインストールした装置を見ただけでは、第三者からはなにをしているのかわからない場合は、「新規性」の要件を満たす場合があります。

進歩性があること

あなたの発明の構成が、既に知られている技術とは違っているものの、既に知られている技術から簡単に創作できる技術の場合、進歩性がない、となります。

たとえば、
○あなたの発明の構成=A+B
○既に知られている技術1の構成=A、既に知られている技術2の構成=B で技術1のAと技術2のBを組み合わせ可能
となっていれば、進歩性がない、となります。

具体的な例で見てみましょう。

特許庁が公開している「2023年度知的財産権制度入門テキスト」には、「進歩性がないと判断される場合」として、以下のような例が挙げられています。

(a)公然と知られた発明や実施された発明を単に寄せ集めたにすぎない発明
・例えば、「船外機(スクリュー等)を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」が実在する場合の、「船外機と空中プロペラの両方を設けた船」

(b)発明の構成の一部を置き換えたにすぎない発明
・例えば、「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術を「机の移動をスムーズにする」キャスターの技術に応用した発明

出典:特許庁ウェブサイト(https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/2023_nyumon.html

ここで言う「公然と知られた」というのは、「誰でも知ることができる」状態を指します。

船の例であれば、既に販売されている場合やパンフレットが配られていて、誰でも「スクリューなどの船外機がある船」と「空中プロペラがある船」を知ることができる状態です。

他にも、技術文献として公開していたり、この船に関する特許申請書類が誰でも見られる状態にあったりすると、誰でも知ることができるので「公然を知られた」状態と言えます。

「公然と実施された」というのも同様で、すでに販売されていれば、「スクリューなどの船外機がある船」と「空中プロペラがある船」は公の場所で実際に使われている、実施されている状態です。

(a)の例として上がっている「船外機と空中プロペラの両方を設けた船」は、「船外機(スクリュー等)を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」を知っている船の分野で通常の知識を有する(いわゆる当業者)であれば、「この2つを組み合わせてしまおう」と思いつくのは容易です。

これを特許申請しても、既に実在する発明(アイデア)を単に寄せ集めたにすぎないとして「進歩性」がないと判断される可能性があります。

また、(b)の例として上がっている「キャスターの技術の応用」もこれら家具やオフィス用品をあつかっている当業者であれば、「椅子に使えるなら机にも使える」と思いつくのも容易です。

これを特許申請しても、実在する発明(技術)の一部の置き換えとして「進歩性」がないと判断される可能性があります。

このように、当業者が簡単に思いつく組み合わせや置き換えなどの発明は「進歩性がない」として特許が付与されません。

さきほどの新規性との関係ですが、たとえ誰も見たことのない新規の発明であっても、すでに世の中で知られている発明などをベースにしたものは、進歩性なしと判断されやすいです。

他の分野の発明を参考にした発明や、すでにある発明をいくつか組み合わせたりした場合も、進歩性なしと判断される確率が高くなります。

ただし、ビジネスモデル特許の場合、ビジネスモデル自体が新しく、これを達成するプログラムを組み込んだコンピューターなどによる処理が新しい場合は、進歩性があると判断される場合があるのです。

さきほどの「オンラインマーケットプレイス」の例で言えば、このマーケットを展開しようとする分野ではオンラインによる取引が難しく、今までオンラインマーケットがなかった場合は、ビジネスモデル自体が新しく、今までオンラインによる取引が難しかったことを考慮するとそのプログラムを組み込んだコンピューターなどによる処理は新しいと判断される可能性があります。

このようにビジネスモデル特許では、プログラムを組み込んだコンピューターなどの「物」が発明になっており、実質的には目に見えない「プログラム」が発明です。

つまり、物の形状や組成、仕組みなど「目に見える物の特徴」が発明となる他の一般的な特許と比較して「新規性および進歩性」の解釈が広がる可能性があります。

その一方で、実質的には目に見えない「プログラム」を発明として申請することとなるため、アイデア段階での申請が乱立している状態です。

そのような「アイデア」だけの申請があるため、実際に運用可能なビジネスモデル特許の申請が「新規性なし」「進歩性なし」と判断されることも多くあります。

この点からも、先に述べたように、「物」を利用していることを強く意識して申請書類に書く必要があります。

「物」として書くことで、アイデアだけの申請との違い、新規性や進歩性を主張しやすいのです。

また、以下の特徴や工夫を探して盛り込むことで進歩性が認められる場合もあります。

  • 用途や業界ならではの特徴や工夫を盛り込む
  • 入力・演算・出力に関する特徴や工夫を探して盛り込む

こういった工夫は、ビジネスのマネタイズポイントを指標にして特定するのが分かりやすくかつ効率的です。

なお、マネタイズポイントとは、そのビジネスモデルの中でマネタイズに役立っているポイントです。

このマネタイズポイントは、競合他社が模倣する可能性が高いポイントであったり、ユーザにとって評価されているポイントだったりします。

そのようなポイントの中には、「用途や業界ならではの特徴や工夫」や「入力・演算・出力に関する特徴や工夫」が往々にして存在しています。

前述のAIやブロックチェーン技術を利用した「オンラインマーケットプレイス」で考えてみましょう。

このオンラインマーケットプレイスが継続的に利益を生み出すには、「顧客が長期的にこのサイトを利用」しなくてはなりません。

そのため、このオンラインマーケットプレイスのマネタイズポイントは「顧客にこのサイトを長期的に利用させること」になります。

そして、顧客にこのサイトを長期的に利用してもらうには「サイトの顧客満足度」を上げることが必要です。

ここで、オンラインマーケットプレイスの特徴を振り返ってみましょう。

「オンラインマーケットプレイス」の特徴
  1. AIを使って顧客の好みに合わせた商品やサービスを提案する
  2. AIを使ってマーケット内のデータを分析し、商品やサービスの価格をリアルタイムに最適化する(ダイナミックプライシング)
  3. ブロックチェーン技術を用いて、顧客データなどを管理し、改ざんなど不正行為を防止する

1,2のいずれも、顧客にとって利益となるので満足度を向上するマネタイズポイントです。

3も顧客が安心してサイトを利用できることから、顧客の満足度を向上するマネタイズポイントになります。

ただし、3は色々な分野で講じられており、分野での差はあまりありません。

では、1,2はどうでしょう?販売している物や販売している期間などにより、独特の工夫がなされている可能性があります。

つまり、マネタイズポイントから「用途や業界ならではの特徴や工夫」や「入力・演算・出力に関する特徴や工夫」を探し出せば、分かりやすく効率的にビジネスモデル特許の進歩性を担保できます。

実施可能要件を満たすこと

「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」を「実施可能要件」といいます。

実施可能要件は、簡単に言えば、「特許の申請書類(明細書)を読めば、その分野で通常の業務をおこなう企業や個人が、同じように技術や方法をおこなえます」ということです。

つまり、読んでも同じように技術や方法を再現できない場合は、「実施可能要件を満たしていない」状態です。

ちなみに、私たち弁理士は出願の相談を受けるときに、お客様から「特許の書類は、わかりにくく書いた方が有利なんですよね」と聞かれることがあります。

このような話は、まことしやかに広まっていますが、間違いです。

わかりにくく書いてしまうと、その分野で活動している企業や個人が技術や方法を再現できず、ここで解説しているように「実施可能要件を満たしていない」ことになります。

ビジネスモデル特許は、先ほども申し上げたように、他の一般的な特許よりも複雑で抽象的な概念をあつかっており、この「実施可能要件を満たすこと」の判断は非常に難しくなります。

さきほどの「オンラインマーケットプレイス」の例でも、AIやブロックチェーン技術の内容をどこまで開示すれば実施可能要件を満たすかを判断するのは非常に難しい問題です。

例えば概念だけでいいのか、しきい値やプログラム構成の特徴や理由をどこまで開示していいのか迷われるでしょう。

私の経験から以下のような点に気をつけなけれならないと思います。

近年のビジネスモデル特許では、サーバによる処理内容に特徴を持たせるケースが多くあります。

そのため、サーバによる処理内容をある程度具体的に書かなければ、実施可能要件を満たす事ができません。

ただし、こういった技術はアイデア段階で特許申請を決め、開発と申請(出願)準備を並行しておこなうケースがほとんどです。

申請するに当たって「アイデアをどこまで具現化すればいいのか」「どう表現すればいいのか」、「アイデアを生かした実験結果などをどこまで用意すればいいのか」など、慣れていなければ対処できない問題が多くあります。

これらのことから、ビジネスモデル特許については、「発明であるかどうか」「新規性があるかどうか」「進歩性があるかどうか」「実施可能要件を満たすためにどこまで開示するか」など、弁理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

その他の要件について

ここでは、「その他の要件」について解説します。

産業上の利用可能性があること

特許制度は産業の発達を目的としています。

そのため、産業上利用できる発明しか特許を受けることができません。

特許・実用新案審査基準の第III部「特許要件」第1章「発明該当性及び産業上の利用可能性」には、下記の(i)から(iii)までのいずれかの場合は、産業上の利用可能性の要件を満たさない旨が規定されています。

(i) 人間を手術、治療又は診断する方法の発明

人間を手術、治療又は診断する方法の発明としては、手術方法や治療方法などの医療行為が挙げられます。

ただし、手術に使う器具などは「物」なので、発明に該当します。

(ii) 業として利用できない発明

業として利用できない発明としては、公に利用するものではない、個人の喫煙方法や学術的および実験的に使用される方法があります。

(iii) 実際上、明らかに実施できない発明

実際上、明らかに実施できない発明は、理論上は可能でも実現できない発明です。

例えば、「地球への紫外線の影響を低減するために、地球全体を紫外線防止フィルムで覆う」などは実現不可能です。

公序良俗違反ではないこと

公の秩序、善良の風俗または公衆の衛生(公序良俗等)を害するおそれがある発明は、たとえ新規性や進歩性があり、産業上利用できても、特許を受けることができません。

公序良俗等を害するおそれがあると判断される例としては、「遺伝子操作により得られたヒト自体」などがあります。

先願であること

日本では、同じ発明の申請が複数あった場合、一番早く申請(出願)したものだけが特許になります。

これを「先願主義」と呼んでいます。

例えば、A社とB社が同時期に同じようなデリバリーのビジネスモデルを考えつき、ビジネスモデルを成り立たせるためのコンピュータープログラムやサーバーの処理プログラムの開発を進めていたとしましょう。

B社は、10月25日にプログラムを完成し、そこから発明を説明する書類(明細書)や申請書を作成して11月25日に申請(出願)したとしましょう。

一方のA社はプログラムの開発と同時に申請の準備も開始し、10月31日にプログラムを完成し、11月5日に申請(出願)したとします。

この場合、B社のほうが早く技術を完成しているにもかかわらず、申請がA社の方が早かったため、A社の発明だけが特許となり得ます。

先願主義では、このようなケースが起こり得るので、早めに出願の準備をするのが得策です。

出願人適格を満たすこと

特許を申請(出願)するには、一般的に法律上の「人」であることが必要です。個人で出願する以外では、「法人格」が必要になります。

【まとめ】

この記事では、特許になるための要件の中でビジネスモデルにとって特に大切な以下の4つの要件について詳しく解説しました。

ビジネスモデル特許において特に重要な要件
  • 発明であること
  • 新規性があること
  • 進歩性があること
  • 実施可能要件を満たすこと

ビジネスモデル特許では、サーバの処理などデータを含めて目に見えないものが発明で、物の形状など目に見えるものが発明となる他の一般的な特許よりも複雑で抽象的な概念をあつかっています。

そのため、上の4つの要件の捉え方も他の一般的な特許とは少し異なります。

一般的な特許に慣れている方でも、ビジネスモデル特許特有の発明の捉え方を習得するのは大変です。

ましてや、特許の根幹となる申請書類の作成は中々できるものではありません。

ビジネスモデル特許の種を見つけ、出願を検討されるなら、まずは「弁理士に相談するのがおすすめ」です。

ぜひ、みなさんの会社の中のビジネスモデルからビジネスモデル特許の種を見出し、特許要件を満たす形で申請し、ビジネスモデル特許を取得しましょう。

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