【弁理士徹底解説】アメリカの商標登録で絶対に失敗しない方法

こんにちは、アイリンク国際特許事務所の弁理士の井上です。

ビジネスをする上で、商品名やサービス名を表す商標は国内外において非常に重要です。

円滑にビジネスを進めるには、日本はもちろん必要と思われる海外の国ごとに商標登録する必要があります。

しかし、諸外国の中でも特にアメリカでの商標登録で苦戦する企業や個人が多くいらっしゃいます。

その理由は、アメリカの商標登録は、諸外国の中でもかなり特殊であるためです。

日本での商標登録の経験がある企業や個人が、日本と同様に商標登録をおこなおうとして失敗するケースが実に多くみられます。

実は、アメリカでの商標登録では、「将来的にアメリカで商標登録しようか?」 と検討する段階から気をつけなくてはならないポイントが幾つかあるのです。

そこで、この記事では、アメリカでの商標登録を検討し始めたところから登録までの流れやコツを全て解説します。

この記事を読めば「アメリカでの商標登録で絶対に失敗しない方法」が分かります。

ぜひ、最後までお読みください。

目次

アメリカの商標登録における最大の特徴

まずは、アメリカの商標登録における最大の特徴を解説します。

最大の特徴としては以下の3点が挙げられます。

  • 使用主義
  • 登録に必要な費用が高め
  • 指定商品役務の記載が厳しい

この記事を読んで、最大の特徴3点だけでも完全に理解して頂ければ、アメリカの商標登録での予期せぬトラブルはかなり減ると考えています。

使用主義

アメリカの商標登録における最大の特徴の1つ目は、「使用主義」という考え方です。

使用主義という考え方では、「商標を実際に使っている事実」を重視しています。

もちろん、諸外国における法律も「その商標を実際にちゃんと使うのか?」という視点をある程度考慮した法律です。

しかし、アメリカでは、この点を非常に重視しています。

世界で最も「使用主義」を重視した国だといえるでしょう。

登録に必要な費用が高め

アメリカの商標登録における2つ目の特徴は、「他の国で商標登録するよりも費用が多めに掛かること」です。

アメリカでの商標登録に掛かる費用は、商標1件1区分の場合の平均額で大体30万円〜50万円程度です。

この額は、諸外国の中でも高い方になります。

費用が高くなる理由は、先ほど説明した「使用主義」という考え方と密接に関係しています。

アメリカで商標登録する時には、日本と異なり「商標を本当に使っている」という「使用の証拠」の提出が必要です。

アメリカと日本など他国における商標登録の大きな違いは「使用している」という証明が必要かどうかです。

アメリカでは、登録した後も、5年後と10年後の更新の時に、使用の証拠の提出の必要があります。

すなわち、アメリカの商標登録では、他の国と異なり「証拠」を用意する手間が掛かります。

これに応じて費用も発生するため、結果的に登録に必要な費用が高めとなりやすいのです。

指定商品役務の記載が厳しい

「指定商品使用役務の記載が厳しい」ことがアメリカの登録商標における3つ目の特徴です。

これも、先程の項で述べた「登録に必要な費用が高め」となる一因といえます。

では、「指定商品使用役務」とは何でしょう?

商標登録をする時に、「登録したい商標を〇〇に使います」と記載します。

ここで指定する「〇〇」が「指定商品使用役務」です。

アメリカでは、「使用主義」を採用しているため、「その商品が何に使われているか」「どの分野(指定商品使用役務)で先に使われているか」が非常に重要です。

アメリカでは、審査の際には使用する分野や商品での商標の使用を基準として判断するため、商標登録の時に記載する「指定商品役務」の記載が厳しくなります。

日本では、「指定商品使用役務」をかなり広めに記載する傾向にあります。

これは、日本では同じ金額で複数の指定商品使用役務を指定でき、同じ金額で幅広く権利を取れるためです。

一方、アメリカでは、「本当に使用するもの」への限定を徹底的に要求されます。

例えば、「楽譜」が本当に使用する役務である場合を考えましょう。

日本では、第16類「印刷物」と広い概念の指定商品使用役務を選択可能です。

しかし、アメリカでは、第16類(楽譜)とかなり具体的に記載することが求められます。

アメリカの特許商標庁に商標を出願(申請)した場合、「指定商品役務の記載をもっと具体的にしてください」という指示がよくきます。

私の経験では、この指示が出るのは50%〜70%くらいの確率です。

このように「指定商品役務」の記載が厳しいことから、アメリカでの商標登録は、当初のお見積りよりも追加で費用が掛かるケースが多いのです。

では、アメリカの商標登録の特徴を踏まえた上で、実際に商標登録する方法をみていきましょう。

アメリカで商標登録する方法

アメリカで商標登録する基本的な方法は、以下の2つです。

  • 直接出願
  • 国際出願(マドプロ)

手続きの方法について解説した後で、実際に手続きする際に「誰に相談すればいいのか」を解説します。

直接出願

「直接出願」とは、アメリカの特許商標庁に直接手続きする方法です。

日本で商標登録する時に、日本の特許庁に書類を提出するのと同じ方法とイメージして頂ければ良いと思います。

ただし、一点だけ違うことは、日本在住の個人や日本の会社がアメリカの特許商標庁に直接自分で手続きすることは認められていません。

必ず、アメリカの弁護士か弁理士に依頼して手続きをする必要があります。

これを、米国代理人や現地代理人と呼んでいます。

国際出願(マドプロ)

もう1つの方法は、「国際出願(マドプロ)」です。

この方法では、アメリカの特許商標庁に直接手続きしません。

国際事務局(WIPO)を利用して手続きをする方法で、「マドリットプロトコル条約」に加入している国であれば手続きができます。

国際事務局(WIPO)は誰でも利用できるため、日本在住の個人や日本の会社が米国代理人を利用することなく手続きをおこなえます。

さらに、この国際出願(マドプロ)を利用すれば、一度の出願(申請)でアメリカだけでなく複数の国に対して手続きが可能です。

誰に相談すればいい?

アメリカの特許商標庁に直接手続きするにせよ、国際出願をするにせよ、高いレベルの専門的な知識が必要です。

かなりの大企業であれば、自社にて手続きをおこないますが、ほとんどの企業や個人はまずは日本の弁理士に相談しています。

弁理士に相談した上で、直接出願あるいは国際出願のどちらを利用するかを決定するケースがほとんどです。

基本的には、アメリカ1カ国だけであれば、直接出願で申請(出願)をします。

一方、アメリカだけでなく、複数の国での商標登録を考えている場合は、多くの場合、国際出願での手続きをおこないます。

これは、複数の国に申請(出願)する場合は、国際出願を使用した方が費用が安くなる可能性があるためです。

また、登録になった後の管理も容易となりますので、国際出願を使うことをご提案しています。

アメリカで商標登録する際に気をつけたい手順

次に、実際にアメリカで商標登録する際に気をつけたい手順を解説します。

アメリカで商標登録する際に気をつけたい手順は以下の2つです。

  • 商標調査
  • 商標の使用証拠の用意

商標調査

アメリカで商標登録したいと思った場合は、最初に商標調査をおこなうことをおすすめします。

日本の弁理士に相談して、アメリカで似たような商標が登録されていないか、商標調査をしてもらいましょう。

なお、日本の弁理士が自分で商標調査ができる事務所もあれば、米国代理人に有料で商標調査を依頼するという事務所もあります。

依頼の際には確認しましょう。

アメリカでの商標調査は、日本国内における商標調査よりも白黒ハッキリしている傾向だといわれています。

次に、その理由を述べます。

アメリカの商標調査の特徴

アメリカでの商標調査が日本国内での商標調査よりも結果が白黒ハッキリしている傾向にあるのには、アメリカの使用主義という考え方が関係しています。

使用主義では、実際に使うものに限定して商標登録する考え方が重要です。

登録商標が実際の使用状況を反映しており、商標調査の精度は必然的に高くなるのです。

そのため、事前に調査をおこない結果を反映して出願すれば、アメリカで「登録商標と似ている」という理由で、商標登録がNGになるケースは日本と比べると少ないといえます。

このほか、表記についても厳密で、「A」という商標と「A+B」という商標のような、部分一致の関係で類似と指摘されることは、日本より比較的少ないと考えます。

また、アルファベット文化の国ですので、アルファベットのスペルの違いも、日本と比べると厳密です。

日本の審査のように、エルとアールの違いがほとんど気にされないといったこともありません。

商標の使用証拠の用意

続いて「商標の使用証拠の用意」について解説します。

ここでは、基本的なことから「商標の使用証拠を用意する」上で気をつけるポイントや提出のタイミングも解説します。

実は、アメリカで商標を出願(申請)する前に、日本で商標を出願した方がいい場合もあるのです。

これも「アメリカで商標登録で失敗しないコツ」なので、ぜひお読みください。

商標の使用証拠の用意は会社や個人がおこなう

経験上、アメリカでも商標登録を希望するお客様の半数以上は、すでに日本で商標登録をしたことがある方だと思います。

ところが、日本での商標登録のご経験があるお客様の中には「アメリカも日本と同じだろう」と考え、失敗してしまう方もいらっしゃいます。

失敗しやすい原因は「商標の使用証拠の用意ができていないこと」言い換えれば「アメリカでの商標の使用の準備ができていないこと」です。

先ほどもお話ししたように、日本での商標登録とアメリカでの商標登録の手続きには「商標の使用証拠が必要かどうか」という大きな違いがあります。

アメリカでへの商標申請(出願)の事務的な手続き自体は、弁理士がおこないます。

しかし、「使用証拠」については、出願(申請)する会社や個人が用意しなければなりません。

この点はよくご注意ください。

出願(申請)の前に、出願(申請)する会社や個人で商標を使い、「アメリカでの商標の使用の準備」をしましょう。

商標の使用証拠を用意する上で気をつけるポイント

続いて、商標の使用証拠を用意する上で気をつけるポイントを解説します。

ポイントは、大きく以下の2つです。

  • アメリカで使っていること
  • 商標を使用していること

順番に解説します。

まず、「アメリカで使っていること」の中の「アメリカで」という部分が大きなポイントです。

例えば、日本のウェブサイト上で「登録したい商標の商品を販売している」場合はどうでしょう?

もちろん、アメリカからもその商品を購入できますが、このケースはアメリカでの使用とは認められません。

アメリカ向けの英語のサイトで、アメリカ人向けに販売していて初めて「アメリカで」・「使っている」と認められます。

この点は、十分注意してください。

次に、「商標を使用している」ことも、しっかり厳密に考える必要があります。

例えば、商品が「パン」の場合、パンのパッケージなどにその商標が印刷されていることが原則として求められます。

ウェブサイト上にその商標が記載されているだけでもOKとなるケースもありますが、シチュエーションはかなり限定的です。

「登録したい商標がアメリカで使っているかどうか」「登録したい商標が使用しているかどうか」の判断は難しいため、弁理士とよく相談してください。

商標の使用証拠を提出するタイミング

この「商標の使用証拠」を提出するタイミングは主に3回です。

  • 商標登録出願時(遅くとも商標登録までには必要)
  • 登録から5年後
  • 登録から10年後(更新時)

主にこの3つのタイミングで、「アメリカでその商標を」・「指定商品について使用している」証拠を提出する必要があります。
使用証拠は厳密に求められ、大きな会社でもミスしてしまうことがあるほどです。

アメリカに出願(申請)する前に、日本国内でも商標登録を検討しよう

実は、アメリカで商標登録する時、日本国内での商標登録があれば手続きが楽になることがあります。

手続きが楽になる理由は、いくつかありますが、そのうち最も大きな理由は「商標登録時に使用証拠の提出が不要になること」です。

つまり、アメリカの特許商標庁は、「日本で同一の商標を商標登録しているという事実をもって、アメリカでもきちんと使用する意思があるのだろう」と推定してくれるわけです。

これにより「アメリカにおける商標の使用証拠」を準備する必要がなくなり、費用的にもかなり大きなメリットとなります。

具体例で考察しよう

ここで、具体的な例で考えてみましょう。

例えば、ABC アパレルという日本のアパレルブランドがアメリカに進出しようと考えたケースで解説します。

この時、衣類はすでにアメリカでも販売しているものの、今後、バッグ・時計・香水など、アメリカで販売するラインナップを増やしていく予定だとします。

この場合、現時点では、アメリカでの使用証拠は「衣類」についてのみです。

すなわち、バッグ・時計・香水などについては、現時点では商標登録できません。

ここで、日本国内で「指定商品使用役務」を展開するラインナップ全てを網羅したものとして商標登録したとします。

すると、まだバッグなどをアメリカで販売していなくてもラインナップ全てのアメリカでの商標登録が可能です。

しかも、米国代理人に依頼して使用証拠を作成して提出する費用と、日本国内で商標登録する費用を比較すると、国内での商標登録の方が安い場合もあります。

そのため、私はこの方法をおすすめすることが多いです。

ただし、この方法を使うためには、アメリカで商標登録する商標と日本の商標が同一であることが必要です。

例えば、日本で「ABCアパレル」のようにカタカナを含む商標を日本で取っていたとしましょう。

この「ABCアパレル」のアルファベット表記の商標「ABC apparel」をアメリカで登録したいと考えたとします。

この場合「ABCアパレル」と「ABC apparel」は全く同一とはいえないため、日本の登録商標をもって「使用証拠の提出が不要になる」ことはありません。

日本国内の登録商標とアメリカで登録した商標が全く同一の場合である場合は、先ほどお話ししたように「アメリカにおける商標の使用証拠」を準備する必要がなくなります。

ただし、「指定商品役務」は国内で登録したものに限られますので、アメリカでは異なる「指定商品役務」に使用したい場合にはカバーされません。

すなわち、この場合は、国内商標をベースにする方法は使えません。

ビジネス上でのメリットを考え、米国商標登録のためだけにアルファベットの商標を日本で登録することも、1つの作戦だと思います。

ケースバイケースではあるものの、日本国内の商標登録はアメリカの商標登録において役に立つ場合があります。

米国代理人のタイムチャージ

ここまでお話ししたとおり、アメリカでの商標登録は、他国と比べて少し多めに費用が掛かります。

使用証拠の提出などが必要であり、他国で商標登録するよりも手続きが多いことなどが大きな理由です。

しかし、費用が高くなる要因には、もう1つ大きな要因があります。

それは、米国代理人のタイムチャージです。

アメリカの弁理士は、日本の弁理士とは異なり、無料で相談に乗ることは原則的にありません。

そのため、基本的なことなどをアメリカの弁理士に相談していると、タイムチャージによる報酬がどんどん加算されて弁理士への支払いが高額となります。

このタイムチャージは、アメリカの物価が高いことも相まって、日本の弁理士に比べるとかなり高額です。

アメリカのように物価の高い国でビジネスをする以上、ある程度仕方がないと考えるしかないとは思います。

しかし、日本の弁理士がアメリカでの商標登録に精通しており実績も多ければ、アメリカの弁理士に依頼する業務を減らしてタイムチャージを大幅に減らせます。

例えば、依頼人の質問に日本の弁理士の知識で全て回答できたならば、米国代理人に問い合わせる必要がなくタイムチャージは大幅に減るでしょう。

こういった事情からも、アメリカでの商標登録に精通し実績の多い国際特許事務所に相談することをおすすめします。

この記事を動画で見たい方はYoutubeでも解説しています!

まとめ

ここまで、アメリカでの商標登録の基本的なことから商標登録の際に気をつけたいポイントなどを解説してきました。

最後に、この記事の重要なところを復習しましょう。

  • アメリカで商標登録する方法は、「直接出願」と「国際出願」の2種類。
    複数の外国へ商標登録する場合は、国際出願の方が安くなる可能性がある。
  • アメリカでの商標登録で気をつけたい手順は「商標調査」と「商標の使用証拠の用意」。
  • 日本国内の登録商標をベースにすれば「使用証拠」を用意しなくても、アメリカで商標登録できる。
    ただし、諸条件があるため、確認が必要。
  • アメリカで商標登録する時は、米国代理人のタイムチャージに要注意。
    アメリカでの商標登録に精通し実績の多い国際特許事務所に相談することで、米国代理人のタイムチャージをおさえられる。

ビジネスを広げるためには、海外への展開は重要です。

特にアメリカは大きなビジネスフィールドといえるでしょう。

この記事があなたのアメリカでのビジネスに役立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【アメリカで商標登録する】ときに絶対失敗しない方法を弁理士が徹底解説

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