みなさんこんにちは、アイリンク国際特許商標事務所弁理士の井上です。
今日は、自分のビジネスが真似されるのを防止したいときに、「特許」「商標登録」「意匠登録」のどれを使うのが適切かを判断する方法を説明します。
これらの知的財産権は、一種のビジネス上の道具ですので、性質を理解して正し使えなければ、せっかく権利を取得しても無駄にお金を使うことになります。
この記事を読めば、「特許」「商標登録」「意匠登録」の違いを知った上で適切な手段の選択方法が分かり、余計な手続きでお金を無駄にしないのはもちろん、模倣対策に有効な強い権利を取得するコツがわかります。
ぜひ最後までお読み下さい。
「特許」「商標登録」「意匠登録」とはそれぞれどういうもの?
さて、まずは、「特許」「商標登録」「意匠登録」とはそれぞれどういうものかについて、簡単に説明します。
特許とは?
まず、特許は、発明を保護する制度です。
発明というのは簡単にいうと、課題を解決するための「技術的な工夫」です。
テクノロジーと言った方がイメージしやすいかもしれません。
商標登録とは?
次に、商標登録は、事業をする上での「ブランドの信頼」を保護する制度です。
商品名や店名などの名前や、ロゴマークなどが対象です。
意匠登録とは?
最後に意匠登録は、新しく作られた「物のデザイン」を保護する制度です。「プロダクトデザイン」という表現の方が分かりやすい方もいるかもしれません。
次に、実際の製品で「特許」「商標登録」「意匠登録」がどのような役割なのかを見ていきましょう。
スマートフォンでの「特許」「商標登録」「意匠登録」は?
ここでは、わかりやすく、「スマートフォン」について見てみましょう。
まず、特許ですが、スマホはもう、特許の塊と言っても良いですね。
高性能なCPUから、割れづらい画面、それらの製造方法まで、企業が開発したありとあらゆる技術的な工夫が、特許として登録されています。
次に、商標でいうと、Apple、iPhone、といったブランド名や商品名が商標登録されています。
そして意匠登録は、このスマホのプロダクトデザイン、つまり商品の形のデザインです。
この3つは、広くは「知的財産権」と呼ばれる仲間ですが、分類すると、特許と意匠が兄弟で、商標が少し遠い親戚のような関係です。
特許と意匠は同じグループ
ここで、なぜ、特許と意匠が同じグループなのかをご説明します。
この話は、かなり重要なのですが、案外知らない方が多いです。
特許は、お金と時間と手間をかけて新しい技術を開発し、しかもそれを惜しげもなく世の中に公開した人に対して、半ばご褒美として与えられる特権です。
なぜご褒美が与えられるかというと、これらの技術が公開されることで、それをベースにして世界中でさらに新たな技術が生まれるためです。
なので、「今回かかった開発費をしっかり回収してさらに利益を出してくださいね」と、労いを込めてマックス20年の独占期間が与えられます。
そして、実は、意匠登録についても、ほとんど特許と同じ理屈となります。
手間と時間とお金をかけて、今までにない新しいデザインを開発した人に対して半ばご褒美として与えられる特権といえます。
ちなみに、アメリカでは意匠登録のことを「デザイン特許」と呼んでいて、完全に同じ仲間として扱われています。
商標登録はアイディアではなくブランドの信頼を守るもの
一方、商標登録はどうかというと、誤解されがちなのですが、商標登録は、例えば、「iPhone」という非常にキャッチーな商標を考えた、そのネーミングのアイディアに対してご褒美として与えられるものではありません。
別の例で言うと、「いきなりステーキ」と言う店名が商標登録されていますが、これは、いきなりステーキを食べられるというビジネス上のアイディアや、それを端的に表したキャッチーなネーミング考えた人に対して、ご褒美的に特権を与える制度ではありません。
商標登録の制度では、ネーミングの良し悪しや、ロゴデザインの良し悪し、ビジネスモデルの良し悪しには全く着目をしません。
では商標登録で何を保護してくれるかというと、それは、あなたの事業のブランドイメージです。
つまり、「長くその商標を使い続けてブランド力を上げてください。」「願わくば、いつかはシャネルやルイビトンのような価値あるブランドに育て上げてください。」ユーザーもそれを望んでいます。」「国は、そのためにあなたのブランドを外敵から守るサポートをします。」といった具合に、商標登録は、あなたの事業のブランドイメージを保護する制度なのです。
商標登録は半永久的に更新できる
そのため、商標登録は、特許のような期間限定の特権ではなく、半永久的に更新できる制度です。
特許のテクノロジーは20年も経てば古くなりますが、ブランドは逆に長く使えば使うほど成長するためです。
例えば、こちらの「寿海」と言う日本酒の商標は、明治時代から存続しています。
「特許」「商標登録」「意匠登録」を理解したところで、次の章では、これらの制度をそれぞれどのようなシチュエーションで使うと良いのかを説明していきます。
商標登録と特許どちらにするか
まずは、「商標登録と特許どちらにするか」について具体例を挙げて説明します。
ここでは、あなたがオリジナルのカップ麺を開発したとして考えてみましょう。
あなたは、このカップ麺にABCヌードルと名前をつけて、販売しようと考えています。
なお、このカップ麺は、独自に開発した技術によって今までにない食感の麺を実現しています。
この時に、パッと思い浮かぶことが2つあります。
- 一つ目は、ABCヌードルという商品名を商標登録した方が良いと言うこと。
- 二つ目には、このオリジナルの麺について特許を取得できないかと言うこと。
商標登録はマスト
この場合、一つ言えることは、商標登録はマストだと言うことです。
なぜならば、商標登録しないで商品を販売していて、他人にABCヌードルと言う商標を取られてしまったら、途中で商品名を変えなくてはならなくなるためです。
特許はよくよく戦略を考えて
一方で、特許については、そこまで話はシンプルではありません。
なぜならば、独自に開発した技術だからといって、世の中において全く新しい物だと言う保証はないためです。
なので、そもそも特許が取れるかどうか調査する必要があります。
そして、仮に特許が取れる可能性があるとしても、必ず特許申請する方が良いとも限りません。特許を取得することがどれくらい経済的な効果を生むか、コストパフォーマンスを踏まえた戦略を練る必要があります。
つまり、コストパフォーマンスが合わないならば、特許を取得しないという選択肢も十分あります。
ここで、なぜ、特許は商標登録と違ってマストでないのか? ですが、これは非常に重要です。
特許は、今まで世の中に知られていない、新しい技術に対して認められる物です。
なので、仮に、あなたがこの新しいカップ麺を、特許を取得せずに販売したとすれば、このオリジナルの麺は世の中に知れ渡りますので、「基本的には」その後、同じものについて他人が特許を取ろうとしても特許を取ることができないためです。
ですので、新しい発明であっても、特許を取得せずに、単に世の中に公開する場合もあります。
特許が取れない場合の商標戦略
一方、「特許は取れなさそうなんだけれど、なんとか、この新しい食感の麺について少しでも真似されないようにしたい…」というシチュエーションもよくあります。
こういう場合には、「ABCヌードル」と言うカップ麺の商品名に加えて、この新しい食感の「麺」自体に名前をつけて商標登録することが考えられます。
例えば、エースコック株式会社は、「真空仕立て麺」と言う商標を商標登録しています。このような方法により、自社が開発した新しい麺が、他社製品とは異なる物であるというイメージを持たせることができる場合もあります。
特許と意匠どちらを使うか
次に、「特許(技術の保護)と意匠登録(デザインの保護)のどちらを使うか」というテーマで、具体例を挙げて説明します。
ここでは、あなたが新しいスピーカーを開発した場合を考えてみましょう。
このスピーカーは、音がクリアに聞こえる独自の「新しい形状」を採用したことが特徴です。
新しい形状について特許が取れないか考える
この時、まず考えるのは、特許だと思います。
このケースのように、スピーカーの形を工夫するだけで音がクリアになるような技術の場合、特許を取らなければ競合他社が簡単に真似をして同じ効果を発揮できますので、ぜひ特許を取得したいところだと思います。
形状だけなら意匠登録も
一方で、このような場合は、意匠登録も考えられます。
今回のスピーカーは形が特徴なので、スピーカーの形状を、デザインとして意匠登録するという方法です。
これも有効なように思えます。
特許と意匠登録どちらを優先すべき?
このような時に、特許と意匠登録両方するのがベストですが、どちらかを優先するならば、基本的には特許だと思います。
なぜかというと、端的に、特許の方が権利範囲が広くなりやすいためです。
特許は、技術的な工夫、考え方そのものを独占できます。
なので、ある程度、同じ考え方に基づく技術的な工夫がされている商品であれば、少し形が違っても、特許権で守れる可能性があります。
一方で、意匠は物のデザインですので、保護対象は、形そのものです。
なので、形が少し違うだけで、意匠権の効果の範囲外になってしまいがちです。
さて、このスピーカーですが、特許調査の結果、形など細かい点は少し違うけれど、これに近い考え方はすでに存在していたことがわかりました。
このような場合、どうすれば良いでしょうか。
もちろん、従来技術との少しの違いを主張して、特許にチャレンジする手もありますが、このような場合には意匠登録が結構役に立ちます。
「形は新しいんだけれど、技術的には同じような考え方が過去にあったんだよなあ」という場合に、少なくとも形だけはきっちりプロテクトするという方法です。
では、このような製品の場合、商標登録はどうでしょう?
やはり商標登録は必須
なお、このケースでも、スピーカーのブランド名を商標登録するのは、ほぼ必須になります。
ここまで「特許」「商標登録」「意匠登録」の各制度をどのようなシチュエーションで使えばいいのか説明してきました。
実は、知的財産権には、他にも「実用新案登録」という制度もあります。
次に、この「実用新案登録」について説明します。
もう一つの選択肢「実用新案登録」
先程のスピーカーの例のように、「ある程度特徴はあるのだけれど、特許になるかどうかは怪しい。」という時に用いる、もう一つの選択肢が、実用新案登録です。
これは、「簡易な特許」のようなニュアンスのものになります。
ここに来て、今まで出てこなかった言葉が急に出て恐縮なのですが、しかし、実用新案について最初に説明しなかったのには理由がありまして、これは、保護する対象自体は特許とほぼ同じだからです。
つまり、実用新案登録も、特許とほぼ同じで、新しい技術を保護をする制度です。
ただし、実用新案が特許と大きく異なるのは、その登録の手続き方法です。
実用新案は、特許と違って「これが新しい技術かどうか」の審査はしません。
なんと、申請したら、とりあえず登録になります。
その代わり、実用新案登録後に、似たようなものを作っている人をやめさせようとし考えた場合、「権利侵害で警告書を出す前にあらためて特許庁の審査を受ける」という流れになります。
したがって実用新案は、とりあえず短期間で登録されている事実を作って、同業他社に対して、「似たものを作ったら侵害になるかもよ」と牽制するには有効な制度です。
最後の選択肢「特許出願中」
最後に、ちょっと裏技チックだけれど、実は最も実用的かもしれない方法をご紹介します。
それが「特許権を取得する」のではなくて、「特許出願中」という状態を3年間維持する方法です。
特許という制度は面白くて、出願しても、「審査してください」と請求しなければ、出願中のまま放置されます。
そして、この状態を最大3年間まで維持できます。
つまり、特許権を取得できるかどうか有耶無耶にしたまま、3年間、「特許になるかもしれないよ」ということだけを競合他社にアピールし続けることができるということです。
これは、競合他社に自社のビジネスを真似されたくない時には、非常に有効です。
事実、私のお客様から、こんな相談がよくあります。
「インターネットで調べていたら、他社がこんな特許を出していたんです。うちの商品と似ているんですが、大丈夫でしょうか?」と言って、特許公開公報を持ってくるんですね。
特許公開公報というのは、特許になる前段階で発行される公報ですので、そこに書かれていることがそのまま特許になっているとは限りません。
それでも、多くの方は、「念の為、似たようなことをやるのはやめた方がいいよな…」と思ってくれるので、かなりの牽制効果があると思います。
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まとめ
今回は、「特許」「商標登録」「意匠登録」の違いと各制度をどのようなシチュエーションで使えばいいのかを説明してきました。
今回のまとめは以下の通りです。
- 特許と意匠は同じ仲間
- 商標登録は、基本必須
- 特許はコストパフォーマンス
- 実用新案は確実に登録になる
- 特許出願中の牽制効果はバカにならない
今日の記事はここまでになります。
今回の話があなたの会社で「特許」「商標登録」「意匠登録」を検討するときに役立つことを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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